【ネタバレ注意】【追記あり】「響け!ユーフォニアム ホントの話」の感想など その1

ごきげんよう
本業のボカロPとしての活動そっちのけでブログ等を書いてる無味Pです。

今日は4月5日に刊行された小説版短編集新刊
響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話」
を読んで、気付いた事などをネタバレガッツリ込みで書かせて頂こうと思います。
最初は発売後1週間で上げようと思ってたのですが、まさかの「リズと青い鳥」公開日のアップになりましたww

相変わらず書きたい事がジャンジャン溢れてしまったので、
・1~6話
・7~11、13話
・アンコン編
の3つに分けようと思います。


2018年4月24日に、第6話の部分を少し追記しました。







以下ネタバレ注意です!

































  • あの話もこの話も読みたかったけど…

短編集が刊行されると発表されてから、「あんな話が読みたい!こんな話が読みたい!」みたいな感じで、色んな話を勝手に期待していたんですが、流石にそんな都合よくは行かないですよねww
ホントの話には収録されなかったけど、個人的に読みたかった話を勝手に羅列して供養しようと思います。

・加部先輩の話が、いつの時点の何の話でもいいから見たかった。
・加部先輩が顎関節症を発症した時に滝先生に相談した時の話が見たかった。
・美知恵先生の話が、いつの時点の何の話でもいいから見たかった。
・関西大会が終わった時の滝先生の胸の内が分かる話が見たかった。
・同じく、関西大会が終わった時のサファイア川島の心情が分かる話が見たかった。
・それでもやっぱり、唯一の3年生がA編成に入れなかったトロンボーンパートの物語が見たかった。
・B編成のコンクールの話が読みたかった。

この辺は、時系列的にも今後補完される事は無いと思うので、自分の中に収めてゆっくり消化しようと思います。

では、ここから先は13ある短編のうち、確実に長くなるアンコン編を除いた12作品の中で、
前半の6作品について、それぞれ1話ずつ感想を書こうと思います。






一、「飛び立つ君の背を見上げる(Fine)」
  • 短編集を通しで読む事で分かる、希美先輩の、ほんの小さく、かつ確実な成長の1歩
この話は、ホントの話が刊行される直前に宝島社の特設公式ホームページに掲載されたものです。
特に印象的なのは、鏡の前で希美先輩が支度をする場面。
手っ取り早く変われるなら、それで。
この文は、パーマをあてるか思案する中でのものですが、この「変わりたい」という願望をベースに、希美先輩視点で話が進みます。夏紀先輩・みぞれ先輩との会話で、希美先輩の中に生まれる負の感情が物語上で何度も描かれ、抑えきれない形で表情や態度として発露される様子も描かれています。
最初、この話をホームページで読んだ時には
「希美先輩とみぞれ先輩は成長する切っ掛けを得たと思ったんだけど、あんまり成長できてないなぁ。まぁ、急に成長を遂げない方がリアリティあるか」
くらいにしか思っていませんでした。
が、短編集を通しで読むと、実は希美先輩もみぞれ先輩も着実に成長をしてるんだという事に気付きました。特にこの「飛び立つ君の背を見上げる(Fine)」は、「真昼のイルミネーション」と「アンサンブルコンテスト」と併せて読む事で、この短編単体では気付かなかった希美先輩の成長を読み取る事ができます。そういう仕組みにしてあるのでしょうか?それとも自分の読解力の問題?詳しくは「真昼のイルミネーション」の所で書こうと思います。
みぞれ先輩に関しては、この短編では分かりませんが、最後に収録されている「飛び立つ君の背を見上げる(D.C.)を見ると色んな事がガチっとハマって、これまたみぞれ先輩の成長を垣間見れるようになってますが、それも後程。
因みに、「Fine」というのは「繰り返しで戻ってきた時に、ここで曲を終わらせる」つまり曲の終わりを意味する音楽記号です。覚えておきましょう。


  • 希美先輩とみぞれ先輩の家庭環境の差
夏紀先輩と希美先輩は大学生活の話題で
「春から家はどうすんの?実家?それとも一人暮らし?」
「うちは実家やけど、優子は一人暮らし始めるって言うてたな。希美は?」
「うちも実家。下宿させられるような金はありませーんって親に言われた」
「ド正論やな」
という会話をします。娘を大学に入学させる事が出来るだけでも、傘木家は経済的に充分豊かではあるんですが、この会話によって希美先輩の音大受験は、演奏技量以前にそもそも経済的にかなり厳しいものだったという事が分かります。
かたやフルートこそ自持ちさせられるものの、娘を大学に行かせるのに精一杯で、下宿させるだけの余裕がない傘木家。
かたや超高額で名高いオーボエを自持ちさせ、家にグランドピアノがあり、娘は音大受験の際に経済的な不安という発想が(少なくともそのような描写が作中に)一切無い鎧塚家。
武田先生は作品にリアリティを持たせたいと言っていました。この辺は、まさにその「リアリティ」という事なのでしょう。


  • なかよし川はやっぱり至高
自分が語るまでもありません。








二、「勉学は学生の義務ですから」
  • 周りが上級者過ぎるが故に、普通の葉月が相対的にグータラに見える
特に麗奈とサファイア川島は完全に「意識高い系」なので、余計そう感じます。久美子も勉強への意識に関しては葉月寄りなんですが、成績に関しては葉月よりも上で、かつ楽器の腕前は葉月よりずっと上手という事で、ますます葉月がグータラに見えます。
これはあくまでもグータラに「見える」だけだと自分は思います。北宇治は学力的に中の上であるという記述があるので、そもそも猛烈な進学校ではない訳です。麗奈はその中でも進学クラスな訳ですが。そして葉月の言う
たとえ未来の自分が苦労しようとも、いまが幸せならそれでいいじゃないか
という感覚は、実に高校生らしいと自分は感じますし、理屈では分かっていてもどうしても勉強を嫌になってしまうのは学生にとって普遍的な事のように感じます。
そんな葉月を囲む3人は、学力も演奏技量も葉月よりも上。一番の救いは、葉月自身がそれに対して劣等感に苛まれていない事ですが、読者の目にはどうしても相対的にグータラに映ってしまいます。原作ではあまり明るい光を浴びない葉月は、3年生に上がってどうなるでしょうか。






三、「だけど、あのとき」
  • 作中唯一の「ガチのソレ」である香織先輩が、ダメ男に引っ掛からずあすか先輩に引っ掛かったのは幸か不幸か
この話は、第二楽章の後編が刊行される前日に宝島社の特設公式ホームページに掲載されたものです。そのタイミングにこの話を投下する武田先生はやっぱり凄いなと思います。
この話の肝は、やはりこの部分でしょう。
香織は、自分が他者から愛されることを知っていた。
香織は自分に親切にしてくれる相手にきちんと誠意で応えるようにしていた。自分を愛してくれる周囲の人々を、香織は心から愛していた。
だけど、あすかは初めから違った。
あすかは香織に、無条件の親愛を与えなかった。それでもそばにいたいと思ったのは、香織があすかに求めているのもが単なる親愛などではなかったからだ。
香織先輩が凄いのは、これだけの美貌をほこり、周りからちやほやされまくりの人生を送っている中で、高飛車になる事無く相手から受ける好意に対して誠意をもって対応している事です。尚且つその相手に返す誠意に「してやってるんだぞ」感が一切ないので、どんどん周りの好意を呼び寄せ、それに誠意を持って応えるから、さらに好意を・・・という好循環が生まれ、僻みや妬みを生みにくい。だからこそ香織先輩の人格もどんどん素晴らしいものになっていきます。それでも妬んだり僻んだりするような人間が近くに居なかったという環境も相俟って、人格者の美人が生育される好循環が達成されているわけです。ここでも「周りの環境」がものを言っていると思います。
そんな中、その美貌と「無条件の親愛を与えなかった」という理由で、あすか先輩に想いを寄せる香織先輩。これは場合によっては、自身の端正な外見を利用して女性を食い物にするような"クズなイケメン"に引っ掛かる可能性が大いにあるんです。そんな中で、あすか先輩に想いを寄せるようになったのは、見方によっては幸せな事だったんじゃないかなと思います。
そして最後、公式ホームページには無かったあとがきが加筆されています。ツイッターでは、この部分を指して「香織先輩ヤバい」みたいな反応がかなりありましたが、個人的にはこのくらいの事をするような雰囲気は原作1巻の時点で充分過ぎるほど出していたので、そこまで驚かなかったです。まぁ作中で唯一、公式で「ガチのソレ」である香織先輩ですから、個人的には
「さすがだなぁ」
くらいに思いましたw
末永くという訳にはいかないと思うので、2人には出来る限り長く耽美な世界を堪能して頂きたいと願っています。







四、「そして、そのとき」
  • 葵先輩に最初に声をかけた杏子さんは、最初「あっ!」と思ったけど違った
葵先輩が大学の入学式で秀大付属の杏子さんに声を掛けられる所から話が進む訳ですが、最初杏子さんが秀大付属の吹奏楽部出身だと告げた瞬間に
「あ!もしかして『あかりちゃんの件』で、怪我してコンクールの関西大会に出れなかったあの先輩か!?」
と思ったんですが、すぐ次の台詞に「トランペットだった」と告げられ、瞬時に否定されました。この杏子さんが、もしあの関西大会に出れなかった先輩だったなら、どんな話になったのか。杏子さんのようにカラッとした態度を取れたか。いや、葵先輩もコンクール前に退部したので、そこまで変な空気にはなってないかもしれませんが。
杏子さんのセリフで刺さったものがあります。
葵先輩:入ってから怖いサークルってわかったらどうしよう
「そのときはやめたらやめたらええやん。趣味やねんから。我慢するために音楽やるんちゃうんやで?楽しめへんかったら意味ないやん」
このセリフが、全国大会常連校出身で、かつ最後の大会で全国行きを逃した代の人が言うという所が、このセリフをさらに重いものにしています。
そう、音楽は・趣味は、楽しめなかったらやる意味なんて無いと自分も思います。楽しい事と怠ける事は違います。楽器を吹く事・音楽をやる事が辛いなら、やる意味は無いと思うのです。そういう意味で、音楽をやる事が辛くなって部活を辞めた葵先輩が、再び音楽の世界に足を踏み入れた事はとても意味のある事だなと思います。



  • 晴香部長の行動力と音楽愛に心が暖かくなる
晴香部長が北宇治の部長を辛いながらも続けてたのは、やっぱり音楽やサックスへの愛なんでしょうし、大学に入って他校のサークルを探してるというのは、音楽愛ゆえの行動力だと思います。楽器が自持ちなら、一般の吹奏楽団という選択肢は思いつくんですが、他校のサークルというのは全く想定外なのは自分だけでしょうか。
吹部出身者が高校を卒業後に音楽を続ける場合、ほとんどの場合は趣味の範疇で続ける事になる訳です。数多あるサークル・楽団の中で、晴香部長のようにあちこち回ってみて、自分の音楽観に合った所を見つけるというのはとても楽しい事です。中学・高校ではなかなか経験できません。府大会に応援に来た晴香部長と葵先輩の様子を見ると、どうやら2人はちゃんと合う場所に巡り合えたんだなと暖かな気持ちになります。高校時代に音楽によって精神を擦り減らす経験をした2人の、今後の音楽人生が豊かなものであるように願わずにはいられません。



五、「上質な休日の過ごし方」
  • 女子高生同士の仲良しな空気感のリアルさは女性作家ならでは
自分というキャラクターをある意味演じている奏にとって、数少ない「演じる割合が少なくて済む」梨々花は、精神的な息抜きができる貴重な存在なのだなという事が良く分かります。今後、奏が精神的に追い詰められる事があった時に、救うのは梨々花なのは間違いないかなと。
それにしても、この2人のやりとり。意味があるようで無いようで、薄っぺらで表面的に見えて、その実、心を許した者同士でしか成り立たないこのやりとりは、女性作家ならではのものかなと感じました。これは、自分の中でのある種の偏見かもしれませんが・・・。




六、「友達の友達は他人」
  • 芹菜がまさかの低音3人+つばめとクラスメート
まさしく、作者だからこそ為せる業。いやいや、だからこそサファイア川島の独演会が見れたので、武田先生には感謝です。



第二楽章後編の感想ブログその4で、サファイア川島のコンクール観について書きました。サファイア川島は、過去に「コンクールで良い賞を取る事よりも大切な事があるはずだ」と言ったり「自分のコンバスが他校に負けたと思った事が無い」と言ったり、ちょっと掴めないところがあったんですが、このSSで、本人の口からかなり具体的な証言を得ました。
芹菜:どっちのほうが上なん?北宇治と、立華と
「演奏って、どっちが上とか言えへんなぁって、緑、思うねん。全国出場とか金賞獲得とか、上手いねって言われる学校のバロメーターは確かにあるけど、でも、音楽ってそれだけちゃうやんか。聞く人の好みもあるし、音楽は生き物やからステージによっても変わったりするし。やからね、緑はあんまり軽々しくどっちが上とかは言えへんかな」
このサファイア川島の発言、とても共感します。そして、この感覚、吹奏楽部員として非常に大事な考えだと思うんです。
芹菜は吹奏楽部の事を良く知らないので、「部活」という事で運動部と同じノリでこういう質問をした訳ですが、それは図らずも吹部にとって永遠の命題に触れる質問で、それに対して真摯に答えるサファイア川島は音楽に真面目だなと思います。(そいえば自分も昔、野球部出身の人から「吹奏楽部って、何を競うの?」「その『合同演奏会』ってのは大会なの?」って聞かれて返答に困った事がありましたw)
北宇治のようにコンクールの全国大会を目指して日々活動をしてると、どうしても「あそこの高校はうちより上手・下手、強い・弱い」みたいな発想になってしまう事があると思うんです。久美子や優子部長はじめ、作中でそういう発言する部員が結構いますよね。もちろんその後の発言でもある通り、北宇治の演奏が一定水準以上にあるという自負があるが故のサファイア川島の発言ではあるんですが、コンクールでの評価に対する価値の比重が高くなってしまいがちな学校吹奏楽にあって、この考えは『音楽』をする上で忘れてはいけない事だと思うんです。そしてこれは、短編集後半にあるアンコン編にもゆるく繋がっていきます。


  • 【追記】サファイア川島の音楽観は、麗奈との対立を生むかもしれない
原作2巻で「圧倒的に上手な演奏をすれば、コンクールで評価されない事はない」と発言している麗奈は、物語の中で「音楽は競技だ」という考えが一貫しています。サファイア川島のこの音楽観は、それとは相反するもののように自分は感じます。麗奈とサファイア川島は、共に北宇治吹部の中で抜きん出た実力を持っています。そして麗奈はドラムメジャー(実質生徒指揮?)。そんな2人の「音楽に対する考え方の相違」は、久美子3年生編でなにか一波乱を起こすでしょうか。そんなのも物語的に面白いかなぁと思ったりしますが、どうでしょうか。


















後半の7~13話は、「その2」に続きます。